名古屋地方裁判所 平成8年(ワ)4619号 判決 1998年2月27日
原告
豊島幸男
ほか一名
被告
山崎洋史
ほか一名
主文
一 被告らは、原告豊島幸男に対し、連帯して、金二四一万四三五〇円及び内金二二一万四三五〇円に対する平成七年五月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告豊島幸男の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
三 原告株式会社天神山の被告らに対する本訴請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを三分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。
五 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは、原告豊島幸男に対し、連帯して、金八五三万七三三一円及び内金七七六万七三三一円に対する平成七年五月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
【訴訟物―民法七〇九条、自賠法三条に基づく損害賠償請求権及び民法所定の遅延損害金請求権。】
二 被告らは、原告株式会社天神山に対し、連帯して、金一二九万八二三九円及び内金一一八万八二三九円に対する平成七年八月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
【訴訟物―民法七〇九条、七一五条に基づく損害賠償請求権及び民法所定の遅延損害金請求権。】
第二事案の概要
本件は、信号機の設置されていない交差点において道路を横断していた原告豊島幸男(以下、「原告豊島」という。)運転の自転車(以下、「原告車」という。)と、直進していた被告山崎洋史(以下、「被告山崎」という。)運転の普通貨物自動車(以下、「被告車」という。)とが出会い頭に衝突して、原告豊島が負傷した事故(以下、右事故を「本件事故」という。)につき、原告豊島及び原告豊島が専務取締役を勤める原告株式会社天神山(以下、「原告会社」という。)が、被告山崎及び被告山崎の使用者であり、被告車の保有者である被告みのや金属工業株式会社(以下、「被告会社」という。)に対して、民法七〇九条、七一五条、自賠法三条に基づき、原告豊島の人的及び物的損害並びに原告会社の会社損害の損害賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実
1 本件事故の発生
(一) 日時 平成七年五月一五日午前九時五〇分ころ
(二) 場所 愛知県一宮市奥町字甚四前二二番地先道路上の信号機の設置されていない交差点(以下、「本件交差点」または「本件道路」という。)
(三) 原告車 自転車
右運転者 原告豊島
(四) 被告車 自家用貨物自動車
右運転者 被告山崎
右保有者 被告会社
(五) 態様 西から東へ本件道路を横断していた原告車と、北から南に向けて走行してきた被告車とが出会い頭に衝突した。
2 被告らの責任原因
(一) 被告山崎は、前方不注視によって、原告豊島の原告車に衝突して原告豊島を負傷させたのであるから、民法七〇九条の責任を負っている。
(二) 被告会社は、被告車を自己のために運行の用に供していた者として自賠法三条の責任と、被告山崎の使用者として民法七一五条の責任を負っている。
3 損害の一部填補(損益相殺)合計金二〇二万一四四九円
(内訳)
<1> 治療費 金一八四万〇四〇九円
(ただし、被告らの支払分は金一三〇万三四八九円で、その余は労災保険が支払った。)
<2> タクシー代 金一二万一三四〇円
<3> 腕時計修理代 金五万九七〇〇円
二 原告らの主張
1 原告豊島の受傷及び後遺障害について
(一) 原告豊島は、本件事故により、左下腿部及び左足関節部開放性骨折等の傷害(以下、「本件傷害」という。)を受け、次のとおり入通院してその治療を受けた。
(1) 一宮市立市民病院
入院 平成七年五月一五日から同年六月一六日
平成八年二月一九日から同年二月二三日
通院 平成七年六月二一日から平成八年四月八日
(2) 以上 実入院日数 三八日
実通院日数 一四日
(二) 原告豊島は右の治療を受けたものの、右足が左足より約二センチメートル短くなり、左膝の靱帯が伸びたことによる関節痛が続くという後遺障害(以下、「本件後遺障害」という。)が残り、平成八年四月八日にその症状は固定して、本件後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令第二条別表の後遺障害別等級表の一三級九号にあたる旨の認定を受けた。
2 本件事故の態様及び被告山崎の過失について
(一) 本件交差点は、その北西角には商店の建物が存在したりして、被告車の進行方向から見て(以下、被告車が走行していた道路を「南北道路」という。)、原告車の出て来る方向の道路(以下、「東西道路」という。)の見通しのきかない変則的な交差点であった。さらに、本件事故当時は、右商店に配送に来ていた訴外車が南北道路上に停止していたことから、右の東西道路の見通しを一層困難にしていた。
そして、原告は、原告車で東西道路を東進して、本件交差点手前の一時停止線の手前で一旦停止して、それから右折して右一時停止線に沿って南進して、横断歩道(南北道路を東西に横切る横断歩道。以下「本件横断歩道」という。)にさしかかって左折して本件横断歩道上をゆっくりと東進して、南北道路の中央付近にさしかかったところ、被告山崎運転の被告車が、時速四〇キロメートルのスピードで走行して来て衝突したものである。
(二) このように、本件事故は、原告車が本件横断歩道上を東進していたにもかかわらず、被告山崎は横断歩道の手前で停止できなかったという義務違反により発生したものであって、被告山崎の一方的な過失によって起きたものである。
3 原告豊島の損害
(一) 治療費 金一八四万〇四〇九円
(二) 文書料 金一〇三〇円
(三) 入院雑費 金四万九四〇〇円
一日金一三〇〇円、三八日間。
(四) 入通院のタクシー代 金一六万三九六〇円
(五) 自宅内手すり設置工事代 金一九万三六四〇円
(六) (1) 携帯電話関係費用 金一二万五一六九円
(2) NTT通話料 金一万八九二〇円
(七) 本件後遺障害による逸失利益 金四三〇万五二五二円
原告豊島の年間給与所得額金七二六万円
労働能力喪失率一〇〇分の九
新ホフマン係数六・五八九
(八) 慰謝料
(1) 入通院慰謝料 金一二一万円
(2) 本件後遺障害慰謝料 金一七〇万円
(九) 物損
(1) 原告車一台 金四万円
(2) スーツ 金五万八八〇〇円
(3) 腕時計修理代 金五万九七〇〇円
(4) 靴 金一万六〇〇〇円
(5) 傘 金六五〇〇円
(一〇) 弁護士費用 金七七万円
4 原告会社の損害
(一) 業務の停滞 金一一〇万円
原告豊島の専務取締役の業務が三分の二程度しか処理できなかったことによるもの。三か月分
(二) 交通費・人件費 金八万八二三九円
担当社員を原告豊島のもとに派遣した費用。
(三) 弁護士費用 金一一万円
三 被告らの反論
1 本件事故の態様及び過失相殺について
被告山崎は、被告車を運転して南北道路を本件交差点に向かって南進し、本件交差点の手前約三〇メートルのところで減速してさらに進行したところ、原告ら主張の停止車両の陰から原告車に乗った原告豊島が、左側(被告車の進行して来る北の方向)にまったく注意をはらわずに、突然斜めに飛び出して来て、被告車と衝突したものである。なお、この時原告豊島は、傘をさして原告車を運転していた。さらに、原告豊島は、本件横断歩道には途中から、しかも、停止中の普通貨物自動車の陰から入ったものであり、横断歩道通行といえるものではない。したがって、本件事故における原告豊島の過失は五割五分となる。
(これを裏付けるように、被告山崎は、本件事故についての業務上過失傷害の刑事事件においては不起訴処分となっている。)
2 原告らの損害について
(一) 文書料、入通院のタクシー代、自宅内手すり設置工事代、携帯電話関係費用、NTT通話料の損害は、いずれも本件事故とは相当因果関係がない。
(二) 原告会社の損害については、その根拠が不明であり、また、本件事故とは相当因果関係がない。
四 争点
被告らは、まず本件事故の態様を争い、前記のとおりの過失相殺を主張し、さらに、原告ら主張の各損害額等をそれぞれ争った。
第三争点に対する判断
一 本件事故による原告豊島の受傷及び後遺障害について
争いのない事実及び証拠(甲第二ないし甲第五号証、甲第二〇号証、原告豊島本人の供述)並びに弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
1 原告豊島は、本件事故により、左下腿部及び左足関節部開放性骨折等の本件傷害を受け、次のとおり入通院してその治療を受けたこと。
(一) 一宮市立市民病院
入院 平成七年五月一五日から同年六月一六日
平成八年二月一九日から同年二月二三日
通院 平成七年六月二一日から平成八年四月八日
(二) 以上 実入院日数 三八日
実通院日数 一四日
2 原告豊島は、右の治療を受けたものの、右足が左足より約二センチメートル短くなり、左膝の靱帯が伸びたことによる関節痛が続くという本件後遺障害が残り、平成八年四月八日にその症状は固定して、本件後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令第二条別表の後遺障害別等級表の一三級九号にあたる旨の認定を受けたこと。
二 原告豊島の損害額について
1 治療費(請求金額一八四万〇四〇九円)
認容額 金一八四万〇四〇九円
前記一の認定事実、前掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係のある原告豊島の治療費については、金一八四万〇四〇九円をもって相当と認められる。
2 入院雑費(請求金額金四万九四〇〇円)
認容額 金四万九四〇〇円
前記一の認定事実、前掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告豊島の入院雑費の額は金四万九四〇〇円(金一三〇〇円×三八日)であると認めるのが相当である。
3 文書料(請求金額一〇三〇円)
認容額 金一〇三〇円
前記一の認定事実、前掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係のある文書料については、金一〇三〇円をもって相当と認められる。
4 入通院のタクシー代(請求金額金一六万三九六〇円)
認容額 金一三万円
前記一の認定事実、前掲の各証拠、証拠(甲第六号証の一ないし二六)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係のある原告豊島の入通院のタクシー代(交通費)については、金一三万円の限度で認めるのが相当である。
5 自宅内手すり設置工事代(請求金額一九万三六四〇円)
認容額 〇円
原告豊島主張の右改装設備については、本件全証拠によるも、医師の診断書等の医学的所見に基づく必要性を認めるに足りる証拠はないから、右工事代は、本件事故と相当因果関係のある損害としてこれを認めることができない。
6 携帯電話関係費用、NTT通話料(請求金額合計金一四万四〇八九円)
認容額 金七万円
前記一の認定事実、前掲の各証拠、証拠(甲第八号証、甲第九号証の一、二、甲第一〇号証の一、二、甲第一一号証、甲第一二号証の一、二)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係のある原告豊島の電話関係費用及び通話料については、金七万円の限度で認めるのが相当である。
7 本件後遺障害による逸失利益(請求金額金四三〇万五二五二円)
認容額 金三五五万八〇六〇円
(一) 前掲の各証拠及び証拠(甲第一八号証の一ないし三、原告豊島本人の供述)並びに弁論の全趣旨によれば、原告豊島は、本件事故当時原告会社の専務取締役として勤務して、その年間給与所得として金七二六万円の支給を受けていたこと、そして、原告会社においては役員として管理職の仕事をしており、その給与のなかにはいわゆる役員報酬の部分と給与及び賞与の部分とが含まれているものと解されること、本件後遺障害は原告豊島の労働能力や通常の生活に直ちに大きな影響を及ぼすものではないことの各事実が認められる。
(二) 以上の各事実、前掲の各証拠及び弁論の全趣旨を総合して判断すると、原告豊島の本件後遺障害による逸失利益の対象となる収入は、一か月当たり金五〇万円と認めるのが相当であり、原告豊島の本件後遺障害は、平成八年四月八日にその症状が固定し、原告豊島は、右の症状固定当時六六歳であったから、本件後遺障害により、その後八年間にわたり、その労働能力の一〇〇分の九相当を喪失したものと認められるから、その間に原告豊島が得ることができたものと推認しうる年収額は、金六〇〇万円であるというべきであり、年五分の割合による中間利息の控除は新ホフマン係数(六・五八九)によるのが相当である。したがって、次の計算式のとおり、原告豊島の本件後遺障害による逸失利益は、金三五五万八〇六〇円となる。
《計算式》 六〇〇万円×〇・〇九×六・五八九=三五五万八〇六〇円
8 慰謝料について
(一) 入通院慰謝料(請求金額金一二一万円)
認容額 金一〇〇万円
弁論の全趣旨によれば、本件受傷の程度、入院及び通院期間等を総合すれば、原告豊島の入、通院慰謝料としては、金一〇〇万円が相当である。
(二) 後遺障害慰謝料(請求金額金一七〇万円)
認容額 金一七〇万円
原告豊島の本件後遺障害の程度及び弁論の全趣旨によれば、原告豊島の本件後遺障害による慰謝料は、金一七〇万円が相当である。
9 物損(請求金額合計金一八万一〇〇〇円)
認容額 合計金一二万二七〇〇円
(一) 原告車(自転車)(請求金額金四万円)
認容額 金二万円
証拠(甲第一四号証)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係のある自転車の損害については、金二万円の限度で認めるのが相当である。
(二) スーツ (請求金額金五万八八〇〇円)
認容額 金三万円
証拠(甲第一五号証)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係のあるスーツの損害については、金三万円の限度で認めるのが相当である。
(三) 腕時計修理代(請求金額金五万九七〇〇円)
認容額 金五万九七〇〇円
証拠(甲第一六号証)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係のある腕時計修理代の損害については、金五万九七〇〇円であると認めるのが相当である。
(四) 靴(請求金額金一万六〇〇〇円)
認容額 金一万円
弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係のある靴の損害については、金一万円の限度で認めるのが相当である。
(五) 傘(請求金額金六五〇〇円)
認容額 金三〇〇〇円
弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係のある傘の損害については、金三〇〇〇円の限度で認めるのが相当である。
三 原告会社の損害額について
1 業務の停滞(請求金額一一〇万円)
認容額 〇円
原告会社主張の右損害については、原告豊島の本件事故とはそもそも相当因果関係のある損害ということはできないものと解するので、その主張自体失当なものといわざるをえないばかりか、原告豊島本人の供述によれば、原告豊島は、その入院中もほぼ通常どおり仕事の指示を出すなどしていた事実が認められ、この事実に照らすと、本件全証拠によっても原告会社の業務が停滞していた事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告会社の右主張の損害はこれを認めることができず、その理由がない。
2 交通費・人件費(請求金額金八万八二三九円)
認容額 〇円
原告会社主張の右損害については、原告豊島の本件事故とはそもそも相当因果関係のある損害ということはできないものと解するので、その主張自体失当なものといわざるをえない。
(なお、右に関連する本件事故と相当因果関係のある費用としては、原告豊島について認めた前記二の6の通信関係費用をもって十分であると認めるのが相当である。)
四 本件事故の態様及び責任原因について
前記の争いのない事実に、証拠(甲第一号証、甲第一七号証、甲第二〇号証、乙第一号証、乙第二号証の一ないし一二、乙第三号証の一ないし七、乙第四号証、原告豊島本人の供述、被告山崎本人の供述【ただし、各供述ともに後記の採用しない部分を除く。】、弁論の全趣旨)を総合すると、次の事実を認めることができる。
1 本件交差点の状況等
被告山崎が南方向に向かって走行していた南北道路は、車道幅員七・二メートル(アスフアルト舗装)の片側一車線の直線道路であり、最高速度毎時三〇キロメートル及び追い越しのための右側部分はみ出し通行禁止の交通規制が実施されていたこと、
原告豊島が東方向に向かって走行していた東西道路は、車道幅員五・三メートル(アスフアルト舗装)の中央線の設置されていない道路であり、本件交差点において、南北道路に出る部分においては一時停止の交通規制が実施されていたこと、また、東西道路は、本件交差点においては南北道路とは整形には交差せず、原告豊島の進行方向から見て北西から南東方向にずれて交差しており、その中央部分に本件横断歩道が設置されていること、そして、本件交差点の南東方向にいわゆる名鉄の駅が存在すること、さらに、本件交差点の北西角(被告車から見て原告車の出て来る方向であり、原告車から見ても被告車の進行して来る方向である。)には、商店の建物が存在してその双方の見通しは悪いこと、
そのうえ、本件事故当時には、本件交差点の北西角の右商店の前には、配送中の普通貨物自動車が駐車(以下、「駐車自動車」という。)していたことから、さらに原告車及び被告車双方の見通しを悪くしていたこと、
2 本件事故の態様
被告山崎は、被告車を運転して、南北道路を木曽川町方面から尾西市方面に向かって南方向に走行し、本件交差点の手前で、本件横断歩道があり、徐行するために時速約三〇キロメートルで直進したが、本件交差点の東西道路の右側である駐車自動車のすぐ後方から傘をさして原告車に乗った原告豊島が、本件交差点を北西方向から南東方向に斜めに横切り、かつ、ほぼ飛び出す形で走行して来たことから、急制動の措置をとったが間に合わず、南北道路のセンターラインを多少東側に超え、原告車の前部が本件横断歩道に入った地点で原告車と衝突したこと
これに対して、原告豊島は、通勤のために前記の名鉄の駅から電車に乗車しようとして、傘をさして原告車を運転して、東西道路を東方面に向かって走行し、本件の交差点で一時停止することなく、しかも、前記のような駐車自動車があったにもかかわらず、傘をさしていたこともあって、ほとんど南北道路の走行して来る車両の有無を確認することなく、前記駅に向かって本件交差点を斜め方向に横断したことから、前記のとおり被告車と衝突したこと、
以上の1及び2の各事実が認められ、右認定に反する原告豊島本人及び被告山崎本人の各供述は、前掲の各証拠に照らしていずれもこれらを採用できない。
3 そこで、まず、被告山崎の過失を検討するに、
本件交差点においては、横断歩道が存在し、しかも、本件事故当時には原告車の出て来る方向の東西道路の視界を妨げる形で駐車自動車が存在したのであるから、南北道路を走行するに際しては、被告車は十分に減速して、かつ、進路前方及び左右を注視して、左右からの自動車の有無などその安全を十分に確認して進行すべき注意義務があったのに、これを怠り、車両の有無を十分に確認しないまま漫然進行した過失があること、
4 これに対して、原告豊島の過失を検討するに、
本件交差点においては、原告車の進行していた東西道路においては、南北道路を横断するには一時停止の規制があり、しかも、本件事故当時には被告車の走行して来る方向の南北道路の視界を妨げる形で駐車自動車が存在したのであるから、原告は、南北道路を横断するに際しては、右交通規制を遵守し、南北道路の左右を注視して、左右からの自動車の有無などその安全を十分に確認して進行すべき注意義務があったのに、これを怠り、一時停止もせず、かつ、左右の安全を十分に確認しないまま漫然進行した過失があること、
以上3及び4の各認定判断に反する原告豊島本人及び被告山崎本人の各供述は、前掲の各証拠に照らしていずれも採用できない。
五 過失相殺について
前記四で認定の各事実及び認定判断によれば、本件事故は、前記認定の被告山崎の過失と原告豊島の過失とが競合して発生したものといわざるをえない。そして、前記認定の諸事情に徴すると、本件事故における被告車と原告車との過失割合については、被告車(被告山崎)が五割、原告車(原告豊島)が五割と認めるのが相当である。
六 具体的損害額について
1 原告豊島について
前記二で認定のとおり、本件で原告豊島が被告らに対して請求しうる損害賠償の総損害額は合計金八四七万一五九九円となり、前記五で認定の過失割合による過失相殺をすれば、原告豊島の具体的な損害賠償請求権は金四二三万五七九九円(円未満切り捨て)になるところ、原告豊島は、損害の一部填補として、前記争いのない事実3のとおり合計金二〇二万一四四九円の支払を受けたので、これらを損益相殺すると、被告らが原告豊島に賠償すべき賠償額は金二二一万四三五〇円となる。
2 原告会社について
前記三で認定のとおり、本件で原告会社が被告らに対して請求しうる損害賠償請求権はない。
七 原告豊島の弁護士費用について(請求額金七七万円)
認容額 金二〇万円
本件事故と相当因果関係のある原告豊島の弁護士費用相当の損害額は、金二〇万円と認めるのが相当である。
八 結論
以上の次第で、原告豊島の本訴請求は、金二四一万四三五〇円及び内金二二一万四三五〇円に対する本件不法行為の日である平成七年五月一五日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、原告会社の本訴請求はすべて理由がない。
(裁判官 安間雅夫)